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Franco et O.K. Jazz (1956-89)

Ntesa Nzitani Dalienst, vocal(1976-89)
Lengo 'Dizzy' Mandjeku, guitar(1982-)
Camile Lokombe Nkalulu, vocal(1980-)


Artist

NTESA DALIENST

Title

THE BEST OF NTESA DALIENST VOL.II


dalienst2
Japanese Title

国内未発売

Date the early 1970s? - 1983
Label AFRICAN/SONODISC CD 36564(FR)
CD Release 1996
Rating ★★★★
Availability


Review

 80年代のTPOKジャズでビッグ・スリーといわれた歌手は、ジョスキー、マディル・システム、そしてダリエンストであった。ジョスキーのつややかな美声、マディルの男くさいハスキー・ヴォイスにたいし、ダリエンストは味のある声というべきか。

 ジョスキーやマディルの歌にはつよいナルシズムが感じられるが、ダリエンストにはそれがない。ハイトーンで鼻にかかった感じとか、ヘタレ気味の歌い口はときに野暮ったくもあり、どこまでも等身大。投げやり調なところはシロウト臭くも聞こえるが、むしろアフリカ的というべきだろう。だから、ジョスキーのようなピタッとしたハーモニーにはならない。これがかれの味なのだ。
 
 ンテサ・ダリエンストのくわしい経歴についてはよくわからない。わたしが知っているのは、元アフリカン・ジャズのボンベンガ率いるヴォックス・アフリカ Vox Africa にシンガーとして参加したあたりからだ。これがおそらく60年代後半で、CD("NALUKI YO TROP ELODIE" (SONODISC CDS 7021))のクレジットにはサム・マングワナパパ・ノエルの名もみえる。

 マングワナは68年はじめにロシュローのアフリカン・フィエスタ・ナショナルを脱退し、一時的にヴォックス・アフリカへ身を寄せていたようだ。ふたりはおそらくそこで意気投合し、同年中の新バンド、フェスティヴァル・デ・マキザール Festival des Maquisards 結成につながった。まもなくギタリストのディジー・マンジェク Lengo 'Dizzy' Mandjeku、歌手のカミーユ・ロコンベ Camile Lokombe Nkalulu もこれに加わった。
 特定のリーダーを擁さずメンバーの合議制による民主的運営をモットーとしていたが、この理想は、翌年なかばには、マングワナとガヴァノ Jean Paul 'Guavano' Vangu の脱退により早くも崩れ去る。そして、残ったダリエンスト、マンジェク、ロコンベ、ディアナ・ンシンバ Simon 'Diana' Nsimba を中心に再編されたのがレ・グラン・マキザール Le Grands Maquisards であった。

 レ・グラン・マキザールは、フェスティヴァル・デ・マキザールといっしょくたに論ぜられることがあるが、別ものと考えるべきだろう。
 なによりもマングワナとダリエンストでは歌い方も作風もかなりちがう。マングワナは発声のたびに余韻を残すが、ダリエンストは声を引きずらない。したがって、マングワナの声はつねに哀愁を帯び、ダリエンストには無防備な青春の痛々しさがある。

 もうひとつはギターのちがい。フェスティヴァルは、ドクトゥール・ニコにならったハワイアン調の甘美で饒舌なガヴァノのリード・ギターと、“ミ・ソロ”の名手ミシェリーノのリズム・ギターとのコンビネーションがサウンド・カラーをつくっていた。
 レ・グランのマンジェクのギターもまろやかではあるがGSっぽいテケテケ風味があって、よりバンド・サウンドに一体化している印象を受ける。このことは、ドラム・キットを本格的に導入したことで、ラテン色が後退しリズムがタイトになったこととおそらく無関係ではない。

 このようにレ・グランのサウンドには、きたるべき“ザイコ革命”の予兆が感じられた。しかし、まだ全体に混沌としたところがあって、ザイコ世代のタイトでスピーディなグルーヴは備わっていない。ギターバンド・スタイルを基本に、ホーン・セクションのリフレインを効果的に用いた'NALELA NDENGE NINI?' など、リズム・ギターがインドネシアのクロンチョンかブラジルのショーロを思わせたりして個人的には結構気に入っているのだが、中途半端な印象はどうしても免れない。

 レ・グラン・マキザールはダリエンストが脱退する74年までのおよそ5年間活動した。CDではンゴヤルトから69、71、72年の音源を集めた"THE VERY BEST OF NTESA DALIENST & LES GRANDS MAQUISARDS" シリーズが発売されている。カタログには3種あって、うち筆者は"VOL.2"(NGOYARTO NG034"SANTU PETELO"(同NG078を所有。"SANTU PETELO"(同NG078は、"VOL.1"(NG012)の全6曲と"VOL.2"(NG034収録の9曲から5曲の計11曲からなるベスト・オブ・ベスト。

 ほかにも68〜69年の音源からなる"LES MEILLEURS SUCCES DE L'ORCHESTRE GRANDS MAQUISARDS" (GEFRACO/KALUILA KL0183)や、ソノディスクのコンピレーション"LES GRANDS MAQUISARDS/CONTINENTAL/VOX AFRICA/CONGA SUCCES"(AFRICAN/SONODISC SONO 36513)などがある。しかし全体に抑揚なく淡々とした展開なのでどれも似たような感じで、悪くはないが通好みといっていい。そこで、ダリエンストが世を去った96年におそらく追悼盤としてソノディスクから2集にわたってリリースされた"THE BEST OF NTESA DALIENST" をとりあげることにした。

 この2枚は、それぞれにレ・グラン・マキザール時代とTPOKジャズ時代の音源を仲よく収める。ほとんどが他のCDで復刻済みだけれど、ダリエンストの歌のみをまとめて聴けるというのはありがたい。
 また、フランコのコーナーで、TPOKジャズ時代のダリエンストの代表曲といわれる'BINA NA NGAI NA RESPECT''LIYANZI EKOTI NGAI NA MOTEMA''MAMIE ZOU' を収めたCDを1枚もいれていなかった。そういう意味でもちょうどいい機会だと思った。
 しかし、1枚のみを選ぶというのが本サイトの基本原則。そこで本論にはいる前に、上の3曲のうち、やむなく外した"VOL.1"(AFRICAN/SONODISC CD 36563)のほうに収録されていた2曲についてふれておくとしよう。

 'BINA NA NGAI NA RESPECT' は、フランコがヨーロッパ移住後の81年に起ち上げたレーベル、エディポップの第1弾"LE QUART DE SIECLE DE FRANCO DE MI AMOR ET LE T.P.O.K. JAZZ, VOL1" のA面に収録されていた曲。演奏時間は、LPの片面をまるまる使った17分25秒とダリエンストの曲では最長。軽快でスピーディなビートにのったダリエンストのさわやかでのびのびした熱唱を心ゆくまで堪能できる。後半の約5分間はTPOKジャズとしては長いセベン(インスト・パート)が用意されている。ここでのシャープでスピーディな切れ味もすばらしく、第3世代にむけたTPOKジャズからの強力な回答といえよう。

 ちなみに同年発売の"VOL2" のA面はジョスキーが書いた'BIMANSHA' だった。この事実はふたりがTPOKジャズの看板歌手であることをしめすものであった。
 ソロ主体のダリエンストにたいして、コーラス重視のジョスキーのコントラストがおもしろく、どちらも甲乙つけがたい名演であるが、親しみやすさでジョスキー、味わいぶかさでダリエンストに軍配か。CD復刻にあたり、ダリエンストのほうは"BINA NA NGAI NA RESPECT"(SONODISC CDS 6865)、ジョスキーのほうは"LETTRE A MONSIEUR LE DIRECTEUR GENERAL"(SONODISC CDS 6857)のラストにほとんど付け足しのように収録されていた。

 80年にフランコについてヨーロッパへ移住したダリエンストだったが、84年終わりから85年はじめごろにTPOKジャズをいったんやめている(いれちがいにレ・グラン時代の同僚ディジー・マンジェクが加入している)。ところが、88年、ひょっこりキンシャサへ戻ってきて、TPOKジャズとレコーディングをした。'MAMIE ZOU' はそのときの1曲。キャッチーでおおらかなメロディが心地よく、ダリエンストにしてはめずらしくソロなく終始コーラスで歌われる。

 その後、ダリエンストは、フランコの死の直後か、たぶん90年代前半に、ヴォーカルのカルリート、ギターのディジー・マンジェクらをさそってル・マキザール Le Maquisard を結成、"BELALO" というLPを発表した。このLPにインスト・ヴァージョン2曲を加えた"BELALO"(GALAXY 3811002というCDが復刻されている。ズークの影響を受けた陽気でダンサブルなリンガラ音楽だが、シンセではなく分厚いホーン・セクションを使っているところに好感が持てる。

 しかし、TPOKジャズでのダリエンストのキラー・チューンは、80年発表のLP"A PARIS" に収録されていた'LIYANZI EKOTI NGAI NA MOTEMA' (別名'MOUZI' )に尽きる。 この曲があるということが"VOL.2" をとった最大の理由である。TPOKジャズのCDでは"EN COLERE VOL.2"(SONODISC CDS 6862)に収録されていた。

 キレのいいハイハットが刻む細かいリズムに、ドライなギターとうなるベースがからんで、ダリエンストのリラックスした歌がはじまる。3分を過ぎたころ、リズムが強化され加速化。迫力のホーン・セクションとラフなコーラスのキャッチボールがしばらくつづく。そこへダリエンストの流れるようなソロがはいる。
 この曲のどこがすごいかというと、音の適度なラフさだと思う。湿度0パーセントの質感といい、テンポアップしてからツッコミ気味にはいるベードラのリズムといい、東アフリカっぽさがあってケニアで大ヒットしたというのもうなづける。ジョスキーには絶対にマネのできない芸当だ。

 本盤は'MOUZI' のほかに、前述の'NALELA NDENGE NINI?' を含むレ・グラン・マキザールから5曲、TPOKジャズから'COUP DE FOUDRE' 'TANTINE' の計8曲を収録。TPOKジャズの2曲は、いずれも既発表でそのときはあまり印象がなかったが、こうして聴いてみると派手さこそないが、音がスマートでなかなか聴かせるものがある。うまくはないが味があるところといい、TPOKジャズのジョージ・ハリスンとよんでみたくなった。


(5.16.04)
(5.21.06 加筆)



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by Tatsushi Tsukahara